2010/05/27

Design Innovation _ Richard Sapper


今週のデザインイノベーションはリチャード・サッパーについて。ミラノで一緒にお昼を食べた思い出は一生モノです^^

元々ドイツ生まれで経済学を学んだあと、ベンツのデザイン部門に入社し、バックミラーのデザインなどをしました。現在拠点としているミラノへ移るきっかけになったのは、建築家でありデザイナーのジオ・ポンティ。サッパーがメーカーにいたとき、ジオ・ポンティはバイクのデザインを依頼されたけれど板金できる人がいなかったため呼びかけたところ、サッパーが「出来ます!(実際はあんまり出来ない)」って言ったことがきっかけでジオ・ポンティの事務所に入ったそうです。

ジオ・ポンティとは、モダンデザインの創始者で、建築を主にしつつ建築に関わるものは全体的にデザインしていた方です。ミラノサローネのような展覧会『トリエンナーレエキジビション』を始めたのもジオ・ポンティ。Domusの初代編集長もジオ・ポンティ。デザイン発展の基礎を作られたすごい方のもとでサッパーはデザインしていたんですね!

『Superleggera』1957
ジオ・ポンティの代表作で、半世紀たった今でも人気の作品です。Superleggeraとは超軽量という意味で、写真にあるように子供でも片手で持ち上 げられるくらいの軽さがポイント。

イタリアではデザインを学べるところが少なく、デザイン=建築に近い考え方をするそうです。なのでアメリカのスタイリング重視に対して、さっきのSuperleggeraのように、ヨーロッパにおけるデザインでは『構造』がとても重要なファクターとなっています。

またデザインの仕組みも全く違います。ヨーロッパではデザイン料は一切取らず、ライセンス計画を取っています。ライセンス計画とは売り上げの何%かがもらえるもので、売れなければ一銭もデザイナーのもとには入ってこないということになります。そのために完成までに3~5
年はかかり試作も何度も作成するため、今までの努力を報いるには10年以上売れ続けることでフェアになる=売れるデザインをする必要があります。日本やアメリカはデザイン料派なので、逆にどんどんデザインを一新していかないと食べていけないわけです。どちらが良いのやら…。

Duomoにあるリナシャンテは日本でいう銀座の松屋のような場所で、デザイン運動の中心地でデザインの発展のためにいろいろな企画を行っていてサッパー は入り浸っていたそうです。そのうちデザインを頼まれるようになり、そこでマルコ・ザヌッソと出会い、意気投合、15年近く一緒にデザインしていきました。


■Sapper's Works


Algol Television 1962-1964
持ち運ぶためのテレビ。未だにモダン。一時期日本でも復刻した。



Grillo Folding Telephone 1965
日本に黒電話しかなかった頃のデザイン。形が鳥がたたずんでいるようなイメージ。受話器の感覚で持ち上げると写真左側のように内側に収まっていた部分がパカッと開く。



Radio 1963
これもAlgolと同じく持ち運ぶためのラジオ。見た目はシンプルだが、造形的には複雑。外から内側に流れ込むようなフォルム。人の目にシンプルに見せるには形をシンプルにする。



Black TV 1969
とにかくシンプル。シンプル過ぎると飽きてしまうため、スイッチやアンテナで人に興味を持たせる。シンプルだけど飽きさせず、興味を湧かせることが大切。形がシンプルなときほどディティールのデザインをどう勝負するかがポイントになる。



Line Radio Receiver 1971
ソニーのMP3を思い出すようなデザインだが、実際は40年も前にその原型があった。これもまた形が究極。1つ究極を極めるとそれに勝るものはなかなか出てこない。



Static Table Clock
サッパーのデビュー作。第二次世界大戦後、弾薬を作っていた中小企業がその弾薬を活かして何か作れないかとデザイナーを探していたとき、リナシャンテでデザインしていたサッパーに依頼がきた。サッパーは弾薬の重りの位置を変えて常に斜めになるようにした。ディティールのポイントはガラスで、弾薬にふたをするような真っ平らではなく、少し浮き上がらせている。


Tizio Table Lamp 1971
ジスモンティ依頼され彼のために作ったランプ。振り子をイメージさせるようなシンプルな形の中に、振り子でいう重り部分がRがかっていて動きを暗示させている。



Minitimer (Kitchen Timer) 1971
タフテの言うMacro/Microの要素がある。側面を一周している数字が分を示し、上部の丸い部分が秒を示している。側面と上部が繋がっていることで関係性が見える。上部は真っ平らではなく少し膨らんでいる。人の目には真っ平らなものはへこんで見えるため、少し膨らみを持たせている。
魅力的なディティールは料理に例えるならスパイスのような存在。ただの『魅力的』は装飾でしかなく、反対にやりすぎると下品になってしまう。



Espresso Coffee Maker 1978
下へいくほど広がっているのは出来るだけ火を受けられるようにしたため。ふたを開ける取っ手が垂直にあり、ふた中心部分へ溝があることで、その垂直部分が取っ手部分であることをアフォーダンスしている。



Kettle 1983
メタファとして鶏を取り入れている。ピーとなる部分はハーモニカメーカーに作らせた。お湯を注ぐときくちばし部分を引っ張るが、その形と動きはピストルをイメージさせる。
メタファとキッチュの説明をするときに一番分かりやすい例。鶏のメタファを使っているが、あまりにキッチュになりすぎると気持ち悪くなってしまう。



■サッパーのデザイン手法

「彫刻のようにデザインする」
色々な角度から人が彫刻をみるように、ちょっとした形が人に興味をもたせる。距離や位置が毎回違うため2度と同じもの(彫刻)は見れない。見る角度によって形が変化することが面白い部分で、正面からと側面から見た形が全く違っていても、正面から側面へ移るとき、その間につながり/連続性があることで人は興味を持つようになる。

『興味の湧くディティールの造形+シンプルな造形』が大事。


「長く飽きないデザイン」
海や雲など、実際に目の前に広がる風景は単純な流れだけれど見ていても全く飽きない。なのに写真という2次元の世界に移っただけで飽きてしまう。

1) 動きを感じさせるようなデザイン
 −動きを感じさせることは人に興味を持たせるポイントとなる
2) シンプルだけど興味を持たせるディティール
 −『興味を持たせる』=スパイス!
3) 無駄なものは取り入れない
 −Kettleの場合、取っ手部分に「とさか」というメタファを取り入れたように、必要な部分にとさかというメタファを入れ込む。

特に2番目の「シンプルだけど興味を持たせる」というフレーズは、講義の中だけで多分10回以上聞きました。きっと3年のときから言われてたような気がするけど、この短時間でこれだけ繰り返し言われたら忘れちゃいけませんね!

サッパーはモットーとして、同じ類のものは2個作らないそうです。どの作品も全て『シンプル』を極めているからだそうです。にしてもそれだけ自信を持って言えることがまずすごい。ただ時代やユーザーにニーズに応じてマテリアルを変えることはあるそうです。


先生が絶賛するほどサッパーの作品は「究極」を極めたものばかり。しかもアップしている作品はほとんど40年近く前にデザインされているものばかり。つまり現代の人々にも受け入れられるデザインだということで…。本当にすごい人と食事したんだなー。。。
どういうイメージでデザインしていたんだろう?
念頭に常に「究極」を置きながらデザインしていたのか、シンプルを極め、ディティールへのこだわりを追求していった最終形態が「究極」になったのか…。
イタリアのデザインビジネス(ライセンス計画)がそうさせたのか…。
食事したときこれ聞けばよかった!

あと、身の回りのものを一方向からみて満足しないで、角度や距離を変えてどういう意図でこの形になったのかとか、周りの人はこの作品の何に惹かれてみているんだろうとか、そういうことを考えながらものを見る癖を付けたいです。思い返せば、美術館行っても「見た」という行為にいつも満足していたような気がします。

ずっとサッパーの作品を見ていると、もので溢れかえっている日本が哀しく思えてきます。特に100均。イタリアでは一般人でもサッパーのことを知っているけれど、日本人で例えばうちの親に佐藤可士和さんを知っているかと聞いても多分知らない確率が高いはず。デザイン以前に文化の違いや美意識の差がありすぎるんだろうな。。。
こういう差を埋めていけるのもデザインの仕事の1つなんだろうな!

先生も最後に言っていたけれど、これからも元気に究極のデザインをやっていってほしいです!

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